急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
一般的治療
安静,酸素投与
硝酸薬,利尿薬,カルペリチド,ACE 阻害薬,ARB など
可能な限り再灌流療法(PCI)
心エコー
Swan-Ganz カテーテル挿入
経口薬や貼布薬に変更
(β遮断薬導入)
軽快不十分
IABP,PCPS
機械的合併症なし 機械的合併症あり
外科的治療
IABP,PCPS
不十分
LVAS を検討
低血圧なし 低血圧あり
ドパミン
ドブタミン
ノルエピネフリン
内服および
点滴薬剤の増量
①その特徴と治療のゴール

 急性心筋梗塞(AMI)による急性心不全の原因は急激な心ポンプ機能失調である.そのため,酸素および血管拡張薬の投与などの急性心不全に対
する治療も並行して行う(Ⅲ.1・2.参照).可能な限り速やかに再灌流療法を施行し,ポンプ機能の改善を図ることを念頭におく189).慢性心不全の急
性増悪とは異なり,体液量は適正であることが多く,利尿薬の過剰使用は控える.ポンプ失調による血圧低下を認める患者では,主要臓器への急激
な灌流低下を避けるためにカテコラミンによるポンプ機能の補助と昇圧が必要となる(Ⅲ.2.参照).薬物治療によっても臓器血流が保たれない患者
ではIABPなどの補助循環装置の適応となる(Ⅲ.5.3.参照).同時に可能な限り早期に再灌流療法を施行し,急性期より左室リモデリング抑制を考
慮した追加療法を行う.現在,ニコランジル190),191),カルペリチド192),193)やサイクロスポリン194)に梗塞サイズ縮小効果をもたらすPost Ischemic
Preconditiongが期待されている.さらに長期的なリモデリングを予防するためには急性期からのACE阻害薬の投与を,また,血行動態が安定した早
期よりβ遮断薬の投与を開始する195),196).AMI による急性心不全に対する治療指針の概略を図14にまとめた197)

②Swan-Ganzカテーテルよる血行動態モニタリング

 AMI によりショックもしくはそれに近い患者,あるいは再灌流療法後も血行動態が安定しない患者ではSwan-Ganz カテーテルを留置し,心内圧,心
拍出量および血管抵抗をモニターしながらカテコラミン,必要であればIABP治療を継続する(Ⅱ.3.1.参照).特に,低心拍出状態を来たす右室梗塞
患者では,補液による十分な前負荷が必要となる.過剰補液により肺うっ血の増悪を避けるためSwan-Ganzカテーテルを用いて血行動態をモニターす
る.その他,予想される治療効果が十分得られない患者ではSwan-GanzカテーテルにてCOPDなどの呼吸器疾患をはじめ,その他の疾患による肺高
血圧症など正確な病態把握に努める.

③虚血性心疾患に伴う重症不整脈

 虚血性心疾患による急性心不全の場合,特に高度な心機能障害を認める患者では,急性期に心室細動や心室頻拍などの致死性不整脈が生じるこ
とはまれではない198).必ず心電図モニター下で管理する.明らかな催不整脈因子を取り除き,また過剰な強心薬の投与は行わず,血行動態の安定
化が得られたら速やかに強心薬を減量・中止する.必要ならば抗不整脈薬の投与を検討するが,Naチャネル遮断薬の使用は長期予後を悪化させるの
で199),長期間投与は控える(Ⅲ.4.7.参照).

④心筋梗塞後の機械的合併症

 AMI に伴う心臓の構造的障害に対しては補助人工心臓の使用や外科的な治療を検討する(Ⅲ.56・57.参照).広範囲心筋梗塞の急性期には
心破裂もしくは心タンポナーデなどによる急激な心拍出量低下が出現することもある198).聴診をはじめ心エコー検査を頻回に行い確認する.心筋梗塞
後の僧帽弁閉鎖不全症は虚血による乳頭筋不全および断裂,もしくは腱索断裂などが関与しており200),急性肺水腫を伴う場合には緊急手術を検討
する201)
1 急性心筋梗塞
図14 急性冠症候群による急性心不全の治療指針
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