急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
クラスⅠ(レベルC)
・心電図モニター
・血圧
・パルスオキシメーター(SaO2)
・ 心エコー図,エコー心ドプラ法による血行動態の推定
・ Swan-Ganzカテーテルによる血行動態測定(表12 クラス
Ⅰ 参照)
クラスⅡa(レベルC)
・動脈圧ライン
・中心静脈ライン
・ Swan-Ganzカテーテルによる血行動態測定(表12 クラス
Ⅱ 参照)
クラスⅢ(レベルB)
・ 治療に際してルーチンのSwan-Ganzカテーテルによる血行
動態の測定
 急性心不全の病態は時々刻々と変化する.また介入した経時的効果をチェックする必要もある.通常の急性心不全では身体所見,血圧,心拍数,
時間尿量,動脈血酸素飽和度,エコー心ドプラ法を用いた推定肺動脈圧などでモニターする.超急性期の病態診断は一時的なもので臨床的な病態
把握とその評価を適時加えていく.例えば,Nohria-Stevenson分類により重症度評価を行い,治療効果を判定し軌道修正する.それでも,病態が明ら
かではない患者ではSwan-Ganz カテーテルガイドの血行動態管理がすすめられる.これにより,心拍出量,肺動脈楔入圧,肺動脈圧,右房圧の同
時連続モニタリングが可能となる.これらのデータは,心不全の病態,重症度を把握し,治療方針を決定する上で極めて重要である.得られたデータ
はその波形も含めて適切に利用されなければならない.中心静脈圧や肺動脈楔入圧の評価の際には,PEEPはどのようになっているか,呼気時の
測定値が採用されているか,また波形の変化を見落としていないか,といった基本的な点にも留意する.

 心ポンプ機能は心拍数,前負荷,後負荷および心収縮力によって規定され,これらの因子が関連しあうことにより心拍出量を一定に保つよう働いて
いる.これらの規定因子を客観的に把握することが,心不全の病態を診断し,治療を進める上で欠かせない.Swan-Ganzカテーテルガイドにより,左
室前負荷の指標として肺動脈楔入圧,心収縮力の指標としての心拍出量が同時に得られる.心拍数は心電図モニターより得られる.後負荷の指標
には体血圧や体血管抵抗が用いられる.また,肺動脈拡張期圧または肺動脈楔入圧は肺うっ血の指標として,収縮期肺動脈圧や肺血管抵抗は右
室の後負荷として用いることができる.これらの指標とその動きをチェックしながら加療する.心不全の病態診断は,右心不全であれば右房圧の上
昇,左心不全であれば肺動脈楔入圧の上昇により判る.しかし,Forrester分類における心係数2.2L/分/m2,肺動脈楔入圧18mmHgという閾値に振り
回されてはならない.心係数が1.8 L/ 分/m2でも全身末梢循環は障害されていないこともある.したがって,疑いが生まれたら,身体所見を参考にし
て,さらに末梢循環の総合指標としての混合静脈血酸素飽和度(SvO2),あるいはその代用である中心静脈酸素飽和度(ScvO2)も利用し,総合的に
判断する.

 既に述べたように,Forrester分類はすべての急性心不全の病態に通ずる評価法ではない.またモニタリングによるチェックでは測定値のみを鵜呑み
にしてならない.必ず患者の症状や身体所見を参考にすることが重要である.例えば,食欲の低下や全身倦怠感,それに意味不明の言動などが低
心拍出状態や右心不全によって発生する.治療する上で極めて役に立つ症状である.モニタリングの結果のみで治療方針を決定したり,修正したりす
べきではない.
1 心血行動態のモニタリング(表15)
表15 急性心不全患者のモニタリング
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