急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
1 慢性心不全の急性増悪:心筋症,特定心筋症,陳旧性心
筋梗塞など
2 急性冠症候群
a) 心筋梗塞,不安定狭心症:広範囲の虚血による機能
不全
b) 急性心筋梗塞による合併症(僧帽弁閉鎖不全症,心
室中隔穿孔など)
c) 右室梗塞
3 高血圧症
4 不整脈の急性発症:心室頻拍,心室細動,心房細動・粗動,
その他の上室性頻拍
5 弁逆流症:心内膜炎,腱索断裂,既存の弁逆流症の増悪,
大動脈解離
6 重症大動脈弁狭窄
7 重症の急性心筋炎(劇症型心筋炎)
8 たこつぼ心筋症
9 心タンポナーデ,収縮性心膜炎
10 先天性心疾患:心房中隔欠損症,心室中隔欠損症など
11 大動脈解離
12 肺(血栓)塞栓症
13 肺高血圧症
14 産褥性心筋症
15 心不全の増悪因子
a) 服薬アドヒアランスの欠如
b) 水分・塩分の摂取過多
c) 感染症,特に肺炎や敗血症
d) 重症な脳障害
e) 手術後
f) 腎機能低下
g) 喘息,慢性閉塞性肺疾患
h) 薬物濫用,心機能抑制作用のある薬物の投与
i) アルコール多飲
j) 褐色細胞腫
k) 過労,不眠,情動的・身体的ストレス
16 高心拍出量症候群
a) 敗血症
b) 甲状腺中毒症
c) 貧血
d) 短絡疾患
e) 脚気心
f) Paget病
 原因疾患は,心筋虚血疾患(冠動脈疾患)と非心筋虚血疾患(心筋疾患,弁膜症,その他)に分けて検索する.

①冠動脈疾患

 急性冠症候群に準じて冠動脈疾患,心筋虚血が主原因か否かを診断する.どのようなタイミングで冠動脈造影および治療介入を行うかは患者の病
態に左右される.少なくとも,心不全管理に難渋する心筋虚血例で介入ポイントが特定された患者では,禁忌事項がない限り介入治療を加える.

②心筋疾患

 球状に左室が拡大し,全周性に左室壁運動が低下している患者では,比較的診断が容易である.CMRや心臓カテーテル検査の良い適応である.
左室拡大がみられず,収縮能が比較的保たれ,左室壁肥厚が明らかな急性心不全患者の場合は,拡張期心不全を疑う.高齢・女性で高血圧患者に
多く,血漿BNP(NT-Pro BNP)値が診断の助けになる例もある.

③弁膜症

 弁膜症による心不全には心エコー検査が診断に有用である.弁逆流や弁狭窄はカラードプラ法により描出される.圧較差も計測される.心不全入院
時には左室拡大や壁運動異常により機能的僧帽弁逆流症を生じる.たとえ強い僧帽弁逆流シグナルを検出したとしても直接原因とは特定できない.

④その他

 不整脈のみにて難治性心不全が発症することはまれである.しかし,心機能が低下している患者では頻脈や徐脈を併発すると心不全が容易に出現
する.左室壁運動が亢進しているにもかかわらず心不全症状に陥る高心拍出性心不全もある.これを認めたときには甲状腺機能亢進症を鑑別診断す
る.特に心房細動例では強く疑う.また,貧血による心不全も高心拍出性心不全を惹起する.その他のまれな原因疾患を表9にまとめた.診断に際し
ては頻度の高いものより疑い,確定診断する.
2 原因疾患の検索
表9 急性心不全の原因疾患および増悪因子
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