急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
クラスⅡa
・ β 遮断薬服用中の心不全増悪患者におけるβ遮断薬の投
与維持,あるいは減量投与:レベルB
・ β 遮断薬服用中の心不全増悪患者に対するPDE阻害薬投
与:レベルC
①その特徴と治療のゴール

 陳旧性心筋梗塞(OMI)は慢性心不全の基礎心疾患としても知られる.狭窄もしくは閉塞した責任冠動脈の灌流領域を超えて広範な左室壁運動低
下を来たしたものは虚血性心筋症と称され,長期間にわたる神経体液性因子の過剰亢進などによるリモデリングの結果である202),203).虚血性心筋
症の急性増悪は慢性心不全の急性増悪に準じて治療を行う.ただし,OMI の心不全急性増悪には,冠動脈病変の進展が関与することもまれではな
く,冬眠心筋のある多枝病変患者と同様,積極的な血行再建を検討する.

②急性期のβ遮断薬

 虚血性心筋症にはβ遮断薬が投与されている患者が多いが,急性増悪を来たした場合でも投与量を減量するなどで対処し,中止せずできる限り継
続する(表16).β遮断薬が導入されていない患者には,特に禁忌がない限り入院中に導入する204).ただし,血行動態が安定していない急性期から
のβ遮断薬の導入は慎重であるべきある.

③心内膜下虚血と冬眠心筋

 OMI 患者では冠動脈病変の進展のみならず,消化管出血などによる貧血,発作性心房細動による頻脈,もしくは過剰な日常活動の結果,心筋で
の酸素の供給と需要のバランスが崩れ,心筋虚血(心内膜下虚血)が出現し,急激な拡張障害および収縮障害による急性心不全が発症する205).心
内膜下虚血を含む冠動脈疾患への治療が必要となる.特に,糖尿病や高血圧による心肥大が併存する患者では心内膜下虚血が生じやすく206),急
激な拡張障害による電撃的な肺水腫を来たす207).硝酸薬スプレーおよび冠拡張薬の使用が効果的である.また,慢性的な心筋虚血が認められる患
者では,冬眠心筋による収縮障害が存在する可能性があり208),灌流領域に心筋バイアビリティが確認された患者では再灌流療法の適応となる.

④虚血性僧帽弁閉鎖不全症

 OMI による心不全では,急性増悪の原因の1つとして虚血性僧帽弁閉鎖不全症が挙げられる.これはTetheringによる僧帽弁のテント化を認め,弁
自体に異常がなくとも乳頭筋と左室高壁の構造的な位置異常が原因となる.虚血性僧帽弁逆流症による急性増悪を予防するためには,弁形成術も
しくは弁置換術のみならず,左室の収縮力を改善すべく再灌流療法や左室形成術も検討される209)
2 虚血性心筋症
表16 慢性心不全の急性増悪におけるβ遮断薬
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