重症の急性心不全,慢性心不全の急性増悪では肺うっ血に伴う重度の低酸素血症と起座呼吸の状態で搬送される.救急外来・緊急処置室での
迅速な診断と的確な救急対応が要求される.まず,心不全ではまず原因疾患を検索するが,緊急時には速やかに生命徴候を確認し,呼吸困難,低
酸素血症,血圧異常などに対する介入を優先する.2008年に提唱されたクリニカルシナリオは急性心不全の救急治療を速やかに開始するための1
つのアプローチである(表11)108).
①心肺停止患者
急性心不全では重度の低酸素血症やアシドーシス,あるいは心室頻拍などの致死的不整脈が原因で心室細動や心肺停止に陥る患者がしばしば
みられる.心不全が重症化し,心肺停止に陥った患者では,停止前の酸素飽和度が低下しており脳虚血が進行しやすい.そのため,より迅速な心
肺蘇生が必要となる.心肺停止時には,「AHA心肺蘇生と救急心血管疾患治療のためのガイドライン2010」,すなわちACLSに基づいた心肺蘇生を
行う.今回のガイドライン改訂の最大の変更点は,A―B―C(気道,呼吸,胸骨圧迫)からC―A―B(胸骨圧迫,気道,呼吸)への変更を勧告してい
る点にある(図10).胸骨圧迫開始の遅れをなくそう,との明確な意図がある.医療従事者は従来通り,30:2で胸骨圧迫(100回以上/分,5cm以上
押す)と換気を繰り返す.そして,できるだけ早期にAEDを用いる.
心室細動または無脈性心室頻拍(pulseless VT)の患者では,気管内挿管よりもまず電的除細動(ショック;2 相性では120~ 200J,単相性では
360J の出力だが2相性の方が除細動されやすい)を最優先する.除細動開始までの時間が少しでもかかるようであれば,ただちに胸骨圧迫を再開
する.心室細動が2~ 3 分以上持続すると心筋内の酸素とエネルギーが枯渇する.最初の電気的除細動後,ただちに絶え間ない心臓マッサージと
人工呼吸(通常30:2 の割合を1 サイクルとする)による心肺蘇生(CPR)を開始する.図11のごとく質の高いCPRを継続しながら独歩退院による完
全回復を目指す.
薬剤投与については,エピネフリン,バソプレシン,アミオダロンが推奨される.我が国ではニフェカラントに関するエビデンスがあり,詳細は抗不整
脈薬の項を参照されたい(Ⅲ.4.7.,Ⅴ.5.参照).気管内挿管は30秒以内に円滑行えるようであれば実施する.しかし,挿管作業に手間取る患
者ではCPRを怠る可能性がある.これはアウトカムとして患者の蘇生率を低下させる.気管チューブの位置およびCPRの質の確認のためにモニタリ
ングとして定量波形によるカプノグラフィが推奨される.
基本的に上記のCPRを続けるが,CPRのみで改善の見込みのない患者で,適応があれば経皮的心肺補助装置(PCPS)を導入する.本法が適
応となる心肺停止患者は,発症が目撃され,適切な蘇生が行われた例で,除外条件に抵触しない例である.特に,劇症型心筋炎109)や重症肺塞栓
症などはPCPSで著明に改善する.これらの患者では導入タイミングを失さないよう留意する.難治性心不全患者では自己心拍が再開しても心ポン
プ機能が低下しているために血圧が維持できないことがある.このような患者では,各種強心薬,昇圧薬を投与する.ガイドライン2010では,心肺再
開後診療の体系化が重要視され,適応患者では低体温療法と経皮的冠動脈インターベンションを追加する110).その他,知っておくべき変更点とし
ては,アトロピンはPEAおよび心静止の介入において通常は推奨されなくなった.また,アデノシンは安定した単形性の広いQRS幅の頻拍の早期
診断や早期治療として推奨される.しかし「不規則な」広いQRS幅の頻拍に対しては使用すべきでない111).