①塩酸モルヒネ
モルヒネは中枢性に働き,その鎮静作用により患者の不穏や呼吸困難感を軽減する.心血管系に対してモルヒネは交感神経緊張の著しい亢進を鎮
静することによって,細動脈や体静脈を拡張するが,静脈系でより強い.細動脈の拡張により後負荷は軽減し,また静脈系の拡張により静脈還流量は
減少し,肺うっ血は軽減する49).心臓の前負荷や後負荷の軽減,心拍数の減少により,心筋の酸素需要は減少する.血管の拡張が過度になると血圧
は低下する.したがって,低血圧,徐脈,高度房室ブロックを合併する患者では注意を要する.呼吸器系に対しては,呼吸回数の減少や呼吸仕事量の
抑制により酸素需要は減少する.一方,炭酸ガスに対する呼吸中枢の反応性低下により呼吸抑制が起こりやすい.
モルヒネは脳内出血例,意識低下例,気管支喘息例,慢性閉塞性肺疾患例に対しては,原則として投与しない.なかでも,慢性呼吸機能不全の患者
や呼吸機能の抑制のためにアシドーシスに陥っている患者ではpHの急激な低下をもたらすことがある.また不安定狭心症を合併している場合には,む
しろ予後を悪化させる可能性がある.使用法:5~ 10mg/Aをゆっくり,または10倍に希釈して2mg程度を3分間かけて静脈内に投与する.必要に応じて
15分ごとに投与を繰り返す.呼吸停止を起すことがあるのでバッグバルブマスクなどを用意する(クラスⅡb,レベルB)(表20).