急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
クラスⅠ
 ・ 酸素投与(SaO2>95%,PaO2>80mmHgを維持):レベルC
 ・ NPPV抵抗性,意識障害,喀痰排出困難な場合の気管内
挿管における人工呼吸管理:レベルC
 ・循環血液量喪失に対する容量負荷:レベルC
 ・カテコラミン投与:レベルC
 ・強心薬併用(カテコラミンとPDE阻害薬):レベルC
 ・ 薬物治療抵抗例に対する補助循環(IABP,PCPS):レベルC
 ・心肺停止時のエピネフリン静注:レベルB
 ・ 心肺停止時のエピネフリン気管内投与(静注量の2~
2.5倍を使用):レベルC
クラスⅡa
 ・NPPV:レベルA
 ・ 薬物治療の限界を超えた難治性心不全で回復の可能性あ
るいは心臓移植適応のある患者に対する補助人工心臓:
レベルB
クラスⅢ
 ・心肺停止時の心腔内注射:レベルC
クラスⅠ
 ・ 酸素投与(SaO2>95%,PaO2>80mmHgを維持):レベルC
 ・酸素投与で無効の場合のNPPV:レベルA
 ・ NPPV抵抗性,意識障害,喀痰排出困難な場合の気管内挿管による
人工呼吸管理:レベルC
 ・ NPPVが実施できない場合の気管内挿管による人工呼吸管理:レベルC
①塩酸モルヒネ

 モルヒネは中枢性に働き,その鎮静作用により患者の不穏や呼吸困難感を軽減する.心血管系に対してモルヒネは交感神経緊張の著しい亢進を鎮
静することによって,細動脈や体静脈を拡張するが,静脈系でより強い.細動脈の拡張により後負荷は軽減し,また静脈系の拡張により静脈還流量は
減少し,肺うっ血は軽減する49).心臓の前負荷や後負荷の軽減,心拍数の減少により,心筋の酸素需要は減少する.血管の拡張が過度になると血圧
は低下する.したがって,低血圧,徐脈,高度房室ブロックを合併する患者では注意を要する.呼吸器系に対しては,呼吸回数の減少や呼吸仕事量の
抑制により酸素需要は減少する.一方,炭酸ガスに対する呼吸中枢の反応性低下により呼吸抑制が起こりやすい.

 モルヒネは脳内出血例,意識低下例,気管支喘息例,慢性閉塞性肺疾患例に対しては,原則として投与しない.なかでも,慢性呼吸機能不全の患者
や呼吸機能の抑制のためにアシドーシスに陥っている患者ではpHの急激な低下をもたらすことがある.また不安定狭心症を合併している場合には,む
しろ予後を悪化させる可能性がある.使用法:5~ 10mg/Aをゆっくり,または10倍に希釈して2mg程度を3分間かけて静脈内に投与する.必要に応じて
15分ごとに投与を繰り返す.呼吸停止を起すことがあるのでバッグバルブマスクなどを用意する(クラスⅡb,レベルB)(表20).
1 鎮静
呼吸管理
 ・気道確保:クラスⅠ,レベルC
 ・酸素投与:クラスⅠ,レベルC
 ・ 酸素投与のみで酸素化不十分の場合のCPAP,Bilevel PAP
などのNPPV(ただし,表18,19参照):クラスⅠ,レベルA
 ・ 酸素投与のみで酸素化不十分の場合の気管内挿管(ただ
し,表18,19参照):クラスⅠ,レベルC
原因疾患の治療(可能な場合)
 ・ 急性心筋梗塞に対する血栓溶解療法/経皮的冠動脈形成
術:クラスⅠ,レベルA
 ・ 急性大動脈解離に対する外科的治療の適応検討:クラス
Ⅰ,レベルC
 ・ 徐脈性不整脈に対する一時的ペーシング:クラスⅠ,レ
ベルC
 ・ 心タンポナーデに対する心膜穿刺ドレナージ:クラスⅠ,
レベルC
 ・ 急性肺血栓塞栓症の急性期で,ショックや低血圧が遷延
する血行動態が不安定な例に対しての血栓溶解療法:ク
ラスⅠ,レベルC
急性心不全の各病態に応じた薬物治療
 ・ 硝酸薬舌下,スプレーまたは静脈内投与:クラスⅠ,レ
ベルB
 ・心肺停止時のエピネフリン静注:クラスⅠ,レベルB
 ・ 急性肺水腫に対する利尿薬静脈内投与:クラスⅠ,レベ
ルC
 ・ 著明な高血圧を伴う急性肺水腫におけるニトログリセリ
ン,Ca拮抗薬(ニカルジピンなど):クラスⅠ,レベルC
 ・ 心原性ショックに対するカテコラミン:クラスⅠ,レベ
ルC
 ・ 薬物治療で循環動態が改善しない場合の補助循環:クラ
スⅠ,レベルC
 ・ 救急処置室での初期治療の後,急性冠症候群の治療のた
め速やかにCCUへ搬送:クラスⅠ,レベルC
 ・モルヒネ静注:クラスⅡb,レベルB
 ・ 高血圧緊急症時のニフェジピン舌下:クラスⅢ,レベルC
 ・心肺停止時の心腔内注射:クラスⅢ,レベルC
表20 救急処置室での初期対応
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表18 急性心不全における呼吸管理
表19 心原性ショックに対する治療