急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
①家族との面会時間を早い時期から確保する
②患者の訴えを傾聴する
③検査や処置の前にその目的や方法を説明し不安を取り除く
④不安や疑問を訴えやすいように積極的に声掛けをする
⑤睡眠時間を確保する
⑥ 活動制限や面会制限でストレスが増大しないよう,気分転
換活動を考慮する
⑦ 検査や治療,リハビリの計画を説明し,患者が今後の予定
をイメージしやすいようにする
⑧ 落ち着きのなさや不眠が続く場合は不穏やCCU症候群を疑
い,予防的対処を考える
①急性心不全における心臓リハビリの意義

 急性心不全における心臓リハビリの目的は,(1)早期離床により過剰な安静の弊害(身体的・精神的デコンディショニング,褥瘡,肺塞栓など)を予防
する,(2)迅速かつ安全な退院と社会復帰へのプランを立案・共有し,実現する,(3)運動耐容能の向上によりQOLを改善させる,(4)包括的な患者教
育と疾病管理により心不全の重症化や再入院を予防する,にある.心不全患者では長期安静臥床による身体的・精神的デコンディショニングや廃用症
候群,さらには低栄養や炎症性サイトカイン上昇による骨格筋萎縮,心臓悪液質を来たしやすいことから,急性心不全早期から理学療法・運動療法と
教育・カウンセリングからなる心臓リハビリを導入する.

 急性心不全に対する入院中のみの心臓リハビリの長期予後改善効果は確認されていない.むしろ,退院後の外来型心臓リハビリが心不全患者の
再入院を予防する効果が示されている.そのことから,入院中の心臓リハビリでは早期離床・早期退院を目指すだけでなく,退院後の心臓リハビリへ
の参加と継続の動機付けを図る.

②理学療法・運動療法

 肺うっ血や発熱などのために安静時にも呼吸困難などの症状がある患者や,鼠径部からIABPなどが挿入されている患者では絶対安静につき理学
療法や運動療法は推奨されない.安静時の症状がなければ,静脈投与中であっても低強度の理学療法・運動療法を行う.例えば,ベッド上でゴム
チューブやボールを用いてリズミカルな抵抗運動を行うことが推奨される.自力座位が可能になれば,座位時間を徐々に延長し,立位訓練を行う.ベッ
ドサイドに降りられるようになったら,ベッドサイドでの
つま先立ち運動を行う.

 補助人工心臓(VAS)を使用中の場合には,創部の炎症が安定すればエルゴメータなどによる運動療法が可能である43)

 有酸素運動は持続点滴終了後に開始する.嫌気性代謝閾値(AT)レベルであっても,肺動脈楔入圧(PAWP)が上昇したり44),僧帽弁逆流症(MR)
が増悪することがある45).ATレベルとともに息切れ感などの自覚症状に注意する.

 心臓再同期療法(CRT)患者では,運動による心拍数増加時に両心室ペーシング機能が無効になることがある.運動中にQRS波形が変化していな
いことを確認しながら運動療法を行う.ペーシングリードの脱落に関しては運動療法が増悪因子となったとする報告はなく,通常の歩行やエルゴメータ
運動はデバイス植込み後3~ 4日後から可能である.植込み側上肢の積極的な運動は1か月以降からとする.

③精神的サポートとカウンセリング

 集中治療室に入院した急性心不全患者は,突然の発症と緊急入院,侵襲的な救命処置,死への恐怖と将来への不安,家族と隔離された不慣れな
環境などのため,不安が強く精神的に不安定な状況にある.また侵襲的処置や安静保持による身体的苦痛や清拭や排泄介助への羞恥心や精神的
苦痛も有している.したがって急性心不全急性期における精神的サポートは患者の精神的苦痛を軽減し,入院中の生活の質(QOL)を高める上で重要
である.さらにストレスはカテコラミン分泌を促進させ,心不全の病態に悪影響を及ぼす可能性がある.心不全急性期からのストレスコントロールは重要
である.具体的対処法を表22に示した.

 急性心不全では身体的苦痛・死への恐怖・将来への不安などにより,不安・抑うつ状態に陥っている患者が少なくない.これらの患者は必ずしも自分
から不安・抑うつ症状を訴えるとは限らないため,医療スタッフが早期発見に努め,心理カウンセリングを行うとともに,必要に応じて薬物治療や認知行
動療法を考慮する.また心不全患者に対する心臓リハビリにより不安・抑うつが改善する46)

④患者教育と疾病管理

 入院早期から心不全管理および再入院予防について包括的な患者教育を実施する.すなわち,(1)毎日体重を測定・記録し,心不全安定期には体
重を目標体重に保つ,(2)心不全再発の初期症状・身体所見を自己チェックし早期発見に務める,(3)服薬を遵守・継続する,(4)塩分摂取を制限す
る,(5)アルコール摂取を控え,禁煙する,(6)適度な運動療法を継続する,などを教育する.

 再入院リスクの高い心不全患者には,退院前から退院後に継続して多職種によるチーム医療介入をする「疾病管理プログラム」が有効である47).ま
た退院後の外来通院型心臓リハビリを疾病管理プログラムとして活用することにより,運動耐容能改善とQOL向上のみならず,再入院予防にも有効で
ある48).したがって,心不全安定後に入院中の心臓リハビリを開始し,退院後に外来心臓リハビリに移行する疾病管理を指導する.
8 心臓リハビリテーション(心臓リハビリ)
表22 急性心筋梗塞症急性期患者に対する精神的サポート
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