急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
うっ血症状と所見
 左心不全
  症状:呼吸困難,息切れ,頻呼吸,起座呼吸
  所見: 水泡音,喘鳴,ピンク色泡沫状痰,Ⅲ音やⅣ音の
聴取
 右心不全
  症状: 右季肋部痛,食思不振,腹満感,心窩部不快感,
易疲労感
  所見: 肝腫大,肝胆道系酵素の上昇,頸静脈怒張,右心
不全が高度な時は肺うっ血所見が乏しい
低心拍出量による症状,所見
  症状:意識障害,不穏,記銘力低下
  所見: 冷汗,四肢冷感,チアノーゼ,低血圧,乏尿,身
の置き場がない様相
 多くの急性左心不全では拡張末期圧容積曲線が機能的に上方に移動し,左室拡張末期圧の上昇と肺うっ血をもたらしている.血管拡張薬は右左連関を介して,この曲線を下方へ移動させ拡張末期圧を低下させる.このような考えから急性左心不全の治療は血管拡張薬が中心となる.一方,右心不全では,静脈系は既に拡張しており血管拡張薬の効果が減少している.特に,急性左心不全は前駆症状の出現から比較的早期に入院に至るのに対し,両心不全や右心不全優位の急性心不全では前駆症状の出現から比較的経過を要して入院することが多い.また,右心不全症状が高度な患者では右心系からの拍出量が減少しており,左心不全に特徴的な肺うっ血やその症状が顕在化しにくい.つまり,右心不全症状を伴った急性心不全(両心不全)は急性左心不全とは病態が異なり,治療方針も異なる.左心不全および右心不全の症状や所見は表8を参照されたい.

 ここでは右心不全を合併している急性心不全の病態を,(1)循環血液量の増加が主体の場合,(2)心拍出量の高度の低下が主体の場合(右心不全が高度),に分けて述べる.また,急性心不全における右心不全の位置づけや,右心機能の診断についても解説する.
1 両心不全の病態と治療
表8 急性心不全の自覚症状,他覚所見
1 循環血液量の増加が主体の場合 2 心拍出量の高度の低下が主体の場合
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