急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
 ASの原因のほとんどは加齢による退行性石灰化病変(大動脈弁硬化症)である.心不全発症後の内科的治療の平均生存期間は2年で,突然死が増
加する227).ASによる急性心不全は,狭窄による左室後負荷の増大に伴う左室駆出率の低下および左室拡張末期圧の上昇に起因しており,薬物治療
には限界がある.手術による狭窄解除が必要である.急性期の薬物治療として,肺うっ血がある場合は利尿薬,血管拡張薬,ジギタリスを注意深く少量
より用いる.急激な左室の前負荷の低下は心拍出量を著しく減少させ,血圧低下を来たす.特に求心性の心肥大が著明で左室内腔の小さい患者は注
意を要する.一般に強心薬は左室圧の増加を来たすので使用できない.但し,極度の心機能低下例では救命の為に必要なこともある.心不全が安定し
た時点で,臨床的な禁忌事項がない症例に手術を考慮する.左室後負荷増大を伴わない左室機能低下例では,左室機能や症状の改善は期待できな
い.しかし生命予後は改善する.

 バルーン弁形成術(PTAC)は術後早期から弁閉鎖不全や再狭窄などを生じ,大動脈弁置換術(AVR)より長期予後は不良である.AVRのリスクが高
く,血行動態的に不安的な患者においてAVRを前提としたブリッジの役割として行われる223),228).近年欧米では経カテーテル的大動脈弁置換術
(TAVI)がAVRのリスクが高い患者に対して施行されており,急性心不全を発症したAS患者の予後を大きく変えることが期待されている.
3 大動脈弁狭窄症(AS)
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