炎症性サイトカインや一酸化窒素(NO)は高濃度になると心筋細胞の機能を抑制し,さらには細胞傷害を惹起する.心筋炎に直接介入できなくとも,
炎症性物質に
よる心筋抑制を開放できれば,急性期を乗り切ることが可能である.免疫抑制を目指したステロイド短期大量療法(ステロイドパルス療法)はこの観点
からの介入法であるが218),219),評価は定まっていない.他には,大量免疫グロブリン療法220),221)や血漿交換療法なども検索されている.
以上のような背景を考慮して,心不全発症時には対応する(表35).特に劇症型心筋炎の急性期では医療スタッフの充実した基幹専門施設に患者を
転送し,必要に応じて補助循環を含めた全身管理を行う.
広範な心筋炎は心収縮力を低下させ心ポンプ失調を招く.その際,循環不全の治療としてカテコラミンが多用されるのはやむを得ない.しかし,同薬
の心筋細胞障害作用を考慮して使用量や投与期間を必要最小限に留める.補助循環で血行動態が安定すれば(Ⅲ.5.3.参照),カルペリチドや
ACE阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬などを用いた心筋保護治療についても検討する.ジギタリスの使用は不整脈を惹起する可能性があり
避けるべきである.
IABP,PCPS,人工ペースメーカなどのデバイス治療は機能的障害に基づく一過性の心機能低下に対する“bridge to recovery”として使われる111),
216),222)(Ⅲ.5.3.,表28および図12参照).その導入タイミングが遅れるとリスクが増大するので,病態の変化に臨機応変に対応する.ちなみに,
日本循環器学会学術委員会研究班報告ではPCPSを回復期までのブリッジ療法として用い心肺危機を凌いだ患者の救命率は58%であった
222).PCPSが長期化するようであればVASも考慮する.