急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
クラスⅠ
 ・IABP,PCPS,体外式ペーシング,LVAS:レベルC
クラスⅡa.
 ・カテコラミン,PDE- Ⅲ阻害薬:レベルC
 ・ 巨細胞性および好酸球性心筋炎でのステロイド療法:レ
ベルC
クラスⅡb
 ・ 大量免疫グロブリン療法,特殊型以外でのステロイド療
法:レベルC
 ・カルペリチド:レベルC
 炎症性サイトカインや一酸化窒素(NO)は高濃度になると心筋細胞の機能を抑制し,さらには細胞傷害を惹起する.心筋炎に直接介入できなくとも,
炎症性物質に
よる心筋抑制を開放できれば,急性期を乗り切ることが可能である.免疫抑制を目指したステロイド短期大量療法(ステロイドパルス療法)はこの観点
からの介入法であるが218),219),評価は定まっていない.他には,大量免疫グロブリン療法220),221)や血漿交換療法なども検索されている.

 以上のような背景を考慮して,心不全発症時には対応する(表35).特に劇症型心筋炎の急性期では医療スタッフの充実した基幹専門施設に患者を
転送し,必要に応じて補助循環を含めた全身管理を行う.

 広範な心筋炎は心収縮力を低下させ心ポンプ失調を招く.その際,循環不全の治療としてカテコラミンが多用されるのはやむを得ない.しかし,同薬
の心筋細胞障害作用を考慮して使用量や投与期間を必要最小限に留める.補助循環で血行動態が安定すれば(Ⅲ.5.3.参照),カルペリチドや
ACE阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬などを用いた心筋保護治療についても検討する.ジギタリスの使用は不整脈を惹起する可能性があり
避けるべきである.

 IABP,PCPS,人工ペースメーカなどのデバイス治療は機能的障害に基づく一過性の心機能低下に対する“bridge to recovery”として使われる111),
216),222)Ⅲ.5.3.,表28および図12参照).その導入タイミングが遅れるとリスクが増大するので,病態の変化に臨機応変に対応する.ちなみに,
日本循環器学会学術委員会研究班報告ではPCPSを回復期までのブリッジ療法として用い心肺危機を凌いだ患者の救命率は58%であった
222).PCPSが長期化するようであればVASも考慮する.
3 炎症性物質による心筋機能抑制からの解消
表35 劇症型心筋炎による急性心不全の治療
急性発症の重篤な心不全・心原性ショック
(心筋梗塞・人工心肺離脱困難例・急性心筋炎など)
慢性心不全加療中・基礎心疾患を有する患者の心不全増悪
離脱 強心剤,IABP/PCPS
離脱
回復(-)
回復(-)
適応(+)
回復(+)
回復(+)
適応(-)
緩和ケア 心臓移植適応判定
長期的使用を
目的としたVAD
心臓移植
IABP PCPS,V-A bypass,ECMO 体外設置型VAD 体内植込み型VAD
挿入方法経皮的経皮的,外科的外科的外科的
補助流量CO最大
40%↑
2.0~3.0L/分3~5L/分機種により異なる.
~10L/分
補助する心室左心左心・右心左心・右心左心
肺機能補助効果なし可能効果なし効果なし
補助期間数日~数週数日~数週数か月(交換により数年も可) 数か月~数年
使用場所病院内のみ病院内のみ病院内のみ退院・在宅療養可
表28 補助循環の種類と特徴
図12 急性心不全患者における機械的補助循環装置の選択と治療体系
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