急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
 急性心不全患者の初期診療においては迅速かつ的確な治療方針および管理目標の設定が不可欠である.症状発症から血管作動薬の投与開始までの時間遷延は,急性心不全患者の予後を危うくする158).したがって,看護師は医療チームの一員としてクリニカルシナリオ(表11)やNohria-Stevenson分類に基づいた治療方針や管理目標の決定に必要な生命徴候,身体所見,検査データ(表13)が速やかに収集され,病態に合致した適切な治療に反映されるよう協力する22),23),159).同時に,患者の症状緩和に努め,心負荷を軽減するためFowler位による安静を保持し,治療の進行に伴う心血行動態や自覚症状の変化を継続的にチェックする(表15).
1 初期診療における看護
入院時の管理
・非侵襲的監視:SaO2,血圧,体温
・酸素
・適応があれば非侵襲陽圧呼吸(NPPV)
・身体診察
・臨床検査
・BNPまたはNT-pro BNPの測定:心不全の診断が不明の場合
・心電図検査
・胸部X線写真
CS 1 CS 2 CS 3 CS 4 CS 5
収縮期血圧(SBP)>140mmHg SBP 100~140mmHg SBP<100mmHg 急性冠症候群右心不全
・ 急激に発症する・ 主病態はびまん性肺水腫・ 全身性浮腫は軽度:体液量が正常または低下している場合もある・ 急性の充満圧の上昇・ 左室駆出率は保持され
ていることが多い・ 病態生理としては血管性・ 徐々に発症し体重増加を伴う・ 主病態は全身性浮腫・ 肺水腫は軽度・ 慢性の充満圧,静脈圧や肺動脈圧の上昇
・ その他の臓器障害:腎機能障害や肝機能障害,貧血,低アルブミン血症・ 急激あるいは徐々に発症する・ 主病態は低灌流・ 全身浮腫や肺水腫は軽度
・ 充満圧の上昇・ 以下の2つの病態がある① 低灌流または心原性ショックを認める場合② 低灌流または心原性ショックがない場合・ 急性心不全の症状およ
び徴候・ 急性冠症候群の診断・ 心臓トロポニンの単独の上昇だけではCS4に分類しない・ 急激または緩徐な発症・ 肺水腫はない
・ 右室機能不全・ 全身性の静脈うっ血所見治療・ NPPVおよび硝酸薬・ 容量過負荷がある場合を除いて,利尿薬の適
応はほとんどない・ NPPVおよび硝酸薬・ 慢性の全身性体液貯留が認められる場合に利尿薬を使用・ 体液貯留所見がなければ容量負荷を試みる
・ 強心薬・ 改善が認められなければ肺動脈カテーテル・ 血圧<100mmHgおよび低灌流が持続している場合には血管収縮薬・ NPPV
・ 硝酸薬・ 心臓カテーテル検査・ ガイドラインが推奨するACSの管理:アスピ
リン,ヘパリン,再灌
流療法
・ 大動脈内バルーンパン
ピング
・ 容量負荷を避ける
・ SBP>90mmHgおよび
慢性の全身性体液貯留
が認められる場合に利
尿薬を使用
・ SBP<90mmHgの場合
は強心薬
・ SBP>100mmHgに改善
しない場合は血管収縮

治療目標
・ 呼吸困難の軽減
・ 状態の改善
・ 心拍数の減少
・ 尿量>0.5ml/Kg/min
・ 収縮機血圧の維持と
 改善
・ 適正な灌流に回復
表11 入院早期における急性心不全患者の管理アルゴリズム(クリニカルシナリオ)
クラスⅠ
 ・ 12誘導心電図,血液ガス分析,血算生化学検査,血漿
BNP(NT-Pro BNP):レベルC
 ・ 胸部X線,心エコー図,ドプラ心エコー図:レベルC
表13 急性心不全入院時検査
クラスⅠ(レベルC)
・心電図モニター
・血圧
・パルスオキシメーター(SaO2)
・ 心エコー図,エコー心ドプラ法による血行動態の推定
・ Swan-Ganzカテーテルによる血行動態測定(表12 クラス
Ⅰ 参照)
クラスⅡa(レベルC)
・動脈圧ライン
・中心静脈ライン
・ Swan-Ganzカテーテルによる血行動態測定(表12 クラス
Ⅱ 参照)
クラスⅢ(レベルB)
・ 治療に際してルーチンのSwan-Ganzカテーテルによる血行
動態の測定
表15 急性心不全患者のモニタリング
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