急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
クラスⅡa
1)血液濾過
 a) 体外限外濾過法(extracorporeal ultrafiltration method:
ECUM):レベルB
 b) 持続性静脈・静脈血液濾過(continuous veno-venous
hemofiltration: CVVH):レベルB
    ただし,容量負荷があり,血行動態が安定している患者.
クラスⅡb
2)血液透析
 a)血液透析(hemodialysis: HD):レベルB
 b)腹膜透析(peritoneal dialysis: PD):レベルB
3)血液透析濾過
 a) 持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration:
CHDF):レベルC
 急性心不全や慢性心不全の急性増悪では,肺うっ血や過剰な体液の貯留に伴いうっ血肝や浮腫が生じる.急性期の治療ではこれら過剰体液を
速やかに解消する必要がある.腎機能が低下し,利尿が得られない患者では,急性血液浄化療法が必要となる(表30).急性心不全に対する血液
浄化法の主な目的として,(1)肺水腫の治療,(2)アシドーシスの改善,(3)電解質異常の補正,(4)輸液スペースの確保,(5)体液性の介在物質
(humoral mediator)の除去,などが挙げられる.

 血行動態への影響が少ない持続性静脈・静脈血液濾過(CVVH)が広く用いられている.水分のみを除去したい場合は簡便で濾過液を用いない
体外限外濾過法(ECUM)を用いる.

 1978年に初めて心不全に対する限外濾過治療が報告されて以来138),その後多くの小規模臨床試験により容量負荷軽減や症状改善効果が報告
された.Bartらによる無作為比較試験は心不全で入院し,少なくともNYHAⅡ度以上,下腿浮腫を示し,内頸静脈圧10cmH2O以上,胸部X線による
肺水腫あるいは胸水貯留,水泡音聴取,肺動脈楔入圧あるいは左室拡張終期圧20mmHg以上,腹水,前仙骨部浮腫のうち少なくとも1つを有する
患者を対象として,「標準治療」と「標準治療+限外濾過」の2群で治療開始24時間後の体重減少を最終評価項目として初めて行われた.ただし,重
度大動脈弁狭窄症,急性冠症候群,収縮期血圧90mmHg以下,ヘマトクリット40%以下,静脈確保困難例,血行動態不安定例,造影剤使用例は
除外された.結果は,限外濾過追加療法群が有意に除水された.しかし,24時間後の体重減少や症状改善に有意差はなかった.ただし,90%の患
者で円滑に除水可能であった139).以上より,早期の限外濾過は除外条件に抵触せねば過剰な体液貯留患者には安全に施行できることが示され
た. 次に行われたUNLOAD試験では非代償性心不全で容量負荷を認る患者,平均年齢(63± 15歳),男性71%,左室駆出率40%未満の患者を対
象に,限外濾過療法あるいは利尿薬静注療法に割り付けて行われた.限外濾過療法はより安全かつ有意に体重減少と除水ができ,症状改善度,
腎機能変化は有意差がなかったものの,90日後の再入院率や予定外来来院率を減少させた.また,血清カリウム値は利尿薬治療群で低下し,血
圧低下にも有意差がなかった140).以上より,限外濾過法の安全性と有用性が示された.ただし,急性冠症候群,血清クレアチニン3.0mg/dL以上,
収縮期血圧90mmHg以下,ヘマトクリット45%以下,静脈確保困難例,昇圧薬を要する例,血管作動薬使用既往例,造影剤使用例,抗凝固薬禁忌
例,全身感染症,入院期間が遷延する可能性のある併存症を有する例,心臓移植例は除外されている.

1)静脈・静脈血液濾過(CVVH)
 心不全に伴う肺水腫や体液貯溜が認められるが,利尿薬の効果が不十分で,病態改善が不充分な患者に用いられる.また,血行動態が不安定
で短時間の除水が困難な患者も対象となる.本法は貯留した大量の過剰体液を濾過できる.肺うっ血やうっ血肝などが改善するまで持続的かつ緩
徐に除水する.大腿静脈や内頸静脈にダブルルーメン カテーテルを留置すれば,1本のカテーテルで脱血,返血可能である.毎分100~ 150mLの
血液を脱血し,濾過後に同カテーテルを通じて中枢側から返血する.

2)持続的血液濾過透析(CHDF)
 急性心不全においては,腎不全や敗血症などの合併時のみならず,心不全そのものでも高サイトカイン血症(IL-6やTNF- αなど)を呈する
138).CHDFはサイトカイン除去が可能であり140),血行動態も改善する.現時点でも本法の臨床使用には賛否両論がある.
5 急性血液浄化治療
表30 急性心不全における血液浄化療法の適応
次へ