急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
 右心不全の多くは左心不全に続発して生じる280).また,右心不全そのものが心室中隔の形態異常(septal bowing)をもたらし,左室拡張機能を低
下させる.左室収縮機能低下と右室収縮機能低下の合併は,単独かつ最大の予後不良因子である280),281).右心不全が進行すると,三尖弁逆流が
増加し,肝うっ血,門脈圧亢進症,腸管浮腫による経口薬剤不応性,肝腎症候群を引き起こす.門脈圧亢進症による静脈- 静脈シャントは混合静脈血
酸素飽和度を上昇させるため,Fick法による心拍出量の測定は実際の拍出量よりも見かけ上増大する.

 また, 左心不全優位の症例に左室補助人工心臓(LVAD)を装着したことにより,それまで不顕性であった右心不全が惹起される点に留意する必要
がある.LVAD装着により左室および右室の圧容積相互関係に変化が生じ,中隔の右室機能に対する役割が変化する.LVAD装着による左室からの
脱血は右室後負荷を減少させるが,前負荷を増加させ潜在性の右室機能不全を顕性化させる.また左室脱血による中隔の解剖学的な左室方向への
シフトは右室充満を増加させるが,右室収縮機能を低下させる.右心不全はLVAD装着後の患者の20~40%に発生し,術後予後に大きく関与し129),
130),LVAD単独手術の予定であった患者の9%で右室補助人工心臓(RVAD)が必要となる282).術前より右心機能(予備能)を評価し,過剰な流量
設定による限界を超えた右室前負荷の増大・必要以上の解剖学的な中隔の位置変化を避けるよう留意する.
1 急性左心不全における右心不全の位置づけ
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