急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
 左心不全に続発する場合を除いた急性右心不全の原因には,右室収縮力の低下(右室梗塞,不整脈源性右室異形成症),右室容量負荷の増加
(急性の三尖弁逆流,フォンタン循環の破綻など),右室後負荷の増大(肺塞栓症,原発性肺高血圧など),右室拡張障害(心タンポナーデ,収縮性心
外膜炎)がある.

 右心不全では体循環系のうっ血が著明となり,頸静脈や肝静脈の怒張,漏出性の胸腹水の貯留,下肢の浮腫が発生する.原因疾患への治療と併
せ,右室後負荷の軽減,右室収縮力の増強,右室前負荷の適切なコントロールが大切となる.PDE─Ⅲ阻害薬単独,あるいはドブタミンとの併用は
肺血管抵抗の軽減と右室収縮力増強に有用である.肺高血圧の程度が高く,強力な右室後負荷の軽減が必要な場合は,Ca拮抗薬,プロスタグラン
ジン製剤,エンドセリン拮抗薬,NO吸入,PDE─Ⅴ阻害薬,Rhoキナーゼ阻害薬の併用が有効である283).肺血管抵抗上昇に起因する右心不全患者
に対し,血管拡張作用を伴わない昇圧薬を投与した場合,右室後負荷の上昇が右室駆出力の限界を超えて上昇し,肺循環が阻害され致命的となり
かねない.また,急性右心不全による浮腫は静脈系の圧上昇による血液成分の組織側への流出により生じ,有効循環血液量は減少している状態に
ある.このため,輸液を含め,右室前負荷は高めに保つ必要がある.

 また,PCPSは右室負荷を軽減し動脈血酸素分圧を適正に保つことが可能であり,肺酸素化機能の障害を伴う急性右心不全において大変有効な治
療である.左心系の補助を必要としない右心補助人工心臓のみが必要な患者はまれである.
2 急性右心不全
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