急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
 肥大型心筋症が起こす急性心不全の病態は,左室流出路狭窄によるものと心筋肥大に起因する拡張機能低下によるものに大別される.左室流出
路狭窄を来たす肥大型心筋症を閉塞型,それを認めないものを非閉塞型と呼ぶ.しかし,安静時に非閉塞型であっても,運動負荷によって狭窄が誘
発されるものが多く217),安静時の検査で非閉塞型であっても急性心不全の際は左室流出路閉塞の有無について必ず確認する.

 左室流出路狭窄によって引き起こされる急性心不全では,左室からの拍出量が低下する.そのために胸痛,動悸,ふらつき,失神などの低心拍出
状態の症状を訴える.診断は経胸壁心エコー図により行う.本病態は,急速な前負荷の低下(脱水,出血),不用意な血管拡張薬・利尿薬の投与,
頻脈性不整脈によって引き起こされる.よって,治療としては,全身状態を見ながら輸液,β遮断薬やⅠ群抗不整脈薬による前負荷の回復,収縮性・
頻脈の抑制を行う213).心室頻拍,頻脈性一過性心房細動を来たしている患者は,積極的に除細動を行い,その後速やかにアミオダロン投与を考慮
する.特に肥大型心筋症は心房細動の発生頻度が高く,抗凝固療法による心原性塞栓症の予防は重要である.また,逆に低心拍出状態があるから
という理由で強心薬投与,胸痛があるからという理由で硝酸薬投与は症状を悪化させる.投与の際には十分に注意が必要である.左室流出路狭窄
による圧較差が高度の患者では,経皮的中隔心筋焼灼術や心筋切除術,あるいはDDDペースメーカ植込み術を考慮する.経皮的中隔心筋焼灼術
は心筋切除術と同等の短期予後(4年生存率)をもたらすが,手技に伴う合併症の発生率は高いとの報告があり214),急性心不全時における適応は
今後の検討課題である.

 左室流出路狭窄を来たしていない肥大型心筋症の基本病態は拡張機能低下によるものであり,治療は拡張性心不全の治療に準ずる.しかし,左
室壁が肥厚している場合,左室内径短縮率,左室駆出率は収縮機能を過大評価している.また,拡張末期容積が縮小している場合,一回拍出量は
必然的に低下する.よって,左室内径短縮率,左室駆出率が保たれていても,急性期に低心拍出状態を来たしている可能性を留意して治療に努め
る.肥大型心筋症は一部拡張相へ移行する患者があり,このような例では拡張型心筋症と同様の治療を行う.拡張相肥大型心筋症は予後不良例が
多く,心臓移植の適応も考慮する.
1 肥大型心筋症(HCM)
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