フラミンガム研究(Framingham study)のうっ血性心不全診断基準(表7)13)をもとに問診や身体所見で評価する.心拍出量の減少,肺動脈楔入圧
の上昇,うっ血や循環不全に伴う自覚症状や他覚所見により原因疾患や重症度を診断する.
①自覚症状
急性心不全では左室拡張末期圧や左房圧の上昇に伴う肺静脈のうっ血と,右房圧の上昇に伴う体静脈のうっ血,それに心拍出量減少に伴う症状が
認められる.「左房圧上昇による肺うっ血」の症状として,初期は労作時の息切れや動悸,それに易疲労感のみで,安静時には無症状である.重症化
すると夜間発作性呼吸困難や起座呼吸を生じ,安静時でも動悸や息苦しさを伴う.「右房圧上昇による体静脈うっ血」の症状としては,食欲不振,便
秘,悪心・嘔吐,腹部膨満感,下腿・大腿浮腫,体重増加,などがある.低心拍出量に基づく症状としては,易疲労感,脱力感,腎血流低下に伴う乏
尿・夜間多尿,チアノーゼ,四肢冷感,記銘力低下,集中力低下,睡眠障害,意識障害などがある(表8).ただし,以上の症状はいずれの患者でも等
しく認められるものではなく,自覚していない,いわゆる「隠れ心不全患者」にも注意する(Ⅱ.参照).
②他覚所見
身体所見および心電図,胸部X線,心エコー図,血液・生化学検査などのデータを迅速,かつ正確に評価して治療方針に反映させる.心聴診につい
てはⅢ音によるギャロップ(奔馬調律),すなわち拡張早期性ギャロップが特徴的である.原因疾患の病態を反映してⅠ音やⅡ音の異常,心房性ギャ
ロップ(Ⅳ音),それに収縮期雑音あるいは拡張期雑音などが聴取される.肺聴診では,軽症では座位にて吸気時に下肺野の水泡音(coarse
crackles)を聴取し,心不全の進展に伴い肺野全体で聴取される.急性肺水腫に陥ると頸静脈怒張,チアノーゼや冷汗を伴う喘鳴,ラ音を伴う起座呼
吸,ピンク色・血性泡沫状喀痰を伴い,心原性肺水腫との診断は容易である.心原性ショックでは収縮期血圧90mmHg未満,もしくは通常血圧より
30mmHg以上の低下がみられ,意識障害,乏尿,四肢冷感,チアノーゼがみられる.低心拍出量を反映して末梢循環不全が著明な患者ほど四肢は冷
たく湿潤し,血色が悪く,蒼白で,口唇や爪床にチアノーゼを認める.尿量の減少,Cheyne-Stokes呼吸や意識障害を伴うこともある.脈拍は微弱で頻
脈となり,しばしば交互脈や上室および心室性不整脈,頻脈性および徐脈性不整脈による脈拍異常を認める.脈拍を触れず,失神や痙攣,あるいは意
識消失を伴っていれば心停止(心室細動,無脈性心室頻拍,心静止,無脈性電気活動)である.体静脈のうっ血により頸静脈怒張,下腿の浮腫,肝腫
大,肝頸静脈逆流を認める.重症になると皮下浮腫は上肢や顔面にまで及ぶ.