欧米の急性心不全とATTEND registryとの比較を表5および図2にまとめた.この比較で注目すべきは,(1)起座呼吸を訴える患者,新規発症が我が
国では多いこと,(2)虚血性心臓病がやや少なめであること,(3)入院日数が中央値で21日と極めて長期である,ことである.疫学調査での比較では登
録施設の特徴により左右されるためその解釈には十分な注意が必要であるが,この点についてはほぼ共通している.
①入院時現症(表5)
ATTEND registry 1,100 例の解析によれば,入院時に発作性夜間呼吸困難55.4%,起座呼吸68.5%,水泡音77.6%,病的Ⅲ音(ギャロップ)
40.5%,頸静脈怒張61.3%,下腿浮腫67.7%,四肢冷感23.3%が認められた.また,入院時身体所見として,平均心拍数99± 30/分,収縮血圧147±
38mmHg,左室駆出率40%以下が57%,血漿BNP値1,063± 1,158pg/mL,であった.
②入院中初期治療(表6)
利尿薬が80.4%,カルペリチドが69.4%と汎用されており,硝酸薬は硝酸イソソルビド,ニトログリセリン,ニコランジルがそれぞれ9.2%,26.0%,
10.6%であった.強心薬は20.7%に使用されており米国に比べて多い.非薬物療法としては非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure
ventilation:NPPV)は約30%と普及度
は十分でない.
③退院時治療(図2)
退院時の経口薬については,アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)とアンジオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)が80%の患者に処方されていた.
欧米とほぼ同様であるが,心不全患者のARBの処方率は50%と極めて高い.利尿薬,β遮断薬,ジゴキシンの処方率は欧米とほぼ同等でそれぞれ約
85%,60%,30%であった.
④転帰
表5に示すように,入院期間が中央値で3週間と欧米に比して極めて長い.院内死亡率はATTEND registryによれば7.7 % であった. また, 長期予
後についてはHIJC-HFやJCARE-CARD研究によると1年総死亡率は約10%であり,欧州の報告12)と比較すると若干良好である.ただし,予後比較を行
うには,同じ調査内容で行う必要があり,現在進行中の欧米主導の国際疫学調査結果が注目される.