急性心不全とは,「心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻し,心室拡張末期圧の上昇や主要臓
器への灌流不全を来たし,それに基づく症状や徴候が急性に出現,あるいは悪化した病態」をいう.急性心不全は,新規発症や慢性心不全の急性増
悪により起こるが,症状や徴候は軽症のものから致死的患者まで極めて多彩である.
急性心不全患者は以下の6病態に分けられる.それぞれにおける特徴を表1にまとめた2).
(1) 急性非代償性心不全:心不全の徴候や症状が軽度で,心原性ショック,肺水腫や高血圧性急性心不全などの診断基準を満たさない新規急性心
不全,または慢性心不全が急性増悪した場合.
(2) 高血圧性急性心不全:高血圧を原因として心不全の徴候や症状を伴い,胸部X線で急性肺うっ血や肺水腫像を認める.
(3) 急性心原性肺水腫:呼吸困難や起座呼吸を認め,水泡音を聴取する.胸部X線で肺水腫像を認め,治療前の酸素飽和度は90%未満であることが
多い.
(4) 心原性ショック:心ポンプ失調により末梢および全身の主要臓器の微小循環が著しく障害され,組織低灌流に続発する重篤な病態.
(5) 高拍出性心不全:甲状腺中毒症,貧血,シャント疾患,脚気心,Paget病,医原性などを原因疾患とし,四肢は暖かいにもかかわらず肺うっ血を認
める.しばしば敗血症性ショックで認められる.
(6) 急性右心不全:静脈圧の上昇,肝腫大を伴った低血圧や低心拍出状態を呈している場合.
慢性心不全の急性増悪とは「慢性心不全の代償機転が短期間に破綻し,病態が急速に悪化した病態」をいう.この増悪を繰り返すことにより,さらに
悪性サイクルが進む.慢性心不全は「慢性の心ポンプ失調により肺および/または体静脈系のうっ血や組織の低灌流が継続し,日常生活に支障を来
たしている病態」と定義される.
心不全の程度や重症度を示す分類には自覚症状から判断するNYHA(New York Heart Association)心機能分類(表2)3),急性心筋梗塞(acute
myocardial infarction:AMI)時には他覚所見に基づくKillip分類(表3)4),血行動態指標によるForrester分類(図1a)がある5).Killip分類および
Forrester分類とも病型の進行に伴い死亡率の増加が示されている.
Nohria-Stevenson分類は末梢循環および肺聴診所見に基づいた心不全患者のリスクプロファイルとして優れている.次のようにProfile AからLまで4
分類したところ( 図1b), 短期間での死亡例( 心臓移植を含む) はProfile CとBに多かった6).
Profile A:うっ血や低灌流所見なし(dry-warm)
Profile B: うっ血所見はあるが低灌流所見なし(wet-warm)
Profile C:うっ血および低灌流所見を認める(wet-cold)
Profile L:低灌流所見を認めるがうっ血所見はない(dry-cold)