急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
 心不全患者の約60%を収縮性心不全,約40%を拡張性心不全が占める263),264).拡張性心不全の主病態は,特に左室拡大を伴わない拡張機能
障害とされる265).前負荷予備能が欠如しているため,血圧上昇あるいは労作などにより容易に左室拡張期圧が上昇し,これが左房圧,肺静脈圧
の上昇をもたらし,呼吸困難感が出現する,したがって収縮機能の悪化を伴うことなく肺水腫を来たし266),心不全による再入院を含めた予後は収縮
性心不全と同様に不良である263),264).高齢の女性に多く,高血圧,糖尿病,慢性腎臓病(CKD),心房細動などを合併する患者が多い.ただし,そ
の病態については未だ不明な点も多く,拡張機能障害のみならず動脈の機能的硬化,機能性僧帽弁逆流なども関与することが明らかにされ267)-
269),欧米では「diastolic heart failure」という表現は,既に用いられなくなっており,「heart failurewith preserved ejection fraction」と位置づけられ
ている.本ガイドラインでは「拡張性心不全」という名称を「heart failure with preserved ejection fraction」に該当する日本語表記として用い,
「diastolic dysfunction」に該当する日本語表記は「拡張機能障害」としている.なお,収縮性心膜炎,大動脈弁狭窄,僧帽弁狭窄なども広い意味で
は「heart failure with preserved ejection fraction」に属するが,通常,これらは除外される.
1 拡張性心不全とは
次へ