急性心不全は患者の個々の病態に即した介入法が必要である.慢性心不全の急性増悪患者は急性左心不全に類似した例と,両心不全や右心不全
優位の症状を呈する例に分けられる.右心不全を伴う急性心不全は,急性左心不全単独例とは治療法が異なる.右心不全存否の鑑別診断は重要で
図4に急性心不全を疑う患者の診察手順をフローチャートでまとめた.急性心不全は初期のアプローチが適切でないと以後の治療が複雑かつ困難と
なる.診断プロセスの中で急性心不全患者の生の病態を迅速かつ正確に把握することが重要である.急性心不全の迅速診断には,(1)どのような急性
心不全か,すなわち,血行動態を中心とした心不全の病態および重症度を把握する,(2)急性心不全の原因疾患は何か,(3)この原因疾患のもとで発
症した増悪因子は何か,がポイントとなる.心不全の病態や重症度はⅠ.総論にて既に述べた.
心不全の原因疾患(表9,10)は介入可能なものから検索する.すなわち,緊急手術や緊急心臓カテーテルなどによる介入が効果的な疾患を中心に
鑑別を進める.見落としは患者の生死に関わる.特に,心筋梗塞,徐脈性不整脈(房室ブロック),心室頻拍,心タンポナーデ,乳頭筋断裂や腱索断裂
による僧帽弁逆流,大動脈解離による大動脈弁逆流などは心不全治療と同時にただちに原因治療を行う必要がある.緊急介入の必要がなければ,心
不全病態の解析を進め,病態に最も即した治療を順次行う.