急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
 明らかな基礎心疾患がなく,持続性または再発性の頻拍を背景に心不全が発症し,頻拍の消失によって心機能が正常化する可逆性の病態を頻拍
誘発型心筋症と呼ぶ244).広義には器質的心疾患による心機能障害が頻拍によって増悪した病態を含む場合もある.年齢から想定される安静時心
拍数上限の120~ 130%の心拍数が数時間/日発生することで生ずる.頻脈性不整脈を合併した心不全患者との鑑別が重要であるが245),確定診断
は心機能の回復をみることによってしばしば後ろ向きに行われる.頻拍が心筋症を誘発する現象は,動物実験における高頻度ペーシングによる心不
全モデルで観察されている.機序として,心筋エネルギーの枯渇,ミトコンドリアの変性246),247),冠循環障害248),細胞内Ca過負荷249)などが考えら
れている.また,細胞外マトリックスのリモデリング,β受容体と細胞内シグナリングの障害250),251),酸化ストレスや炎症機転の関与252)なども報告さ
れている.

 頻拍誘発型心筋症は,リズムコントロールまたはレートコントロールで左室機能障害が回復するので,非可逆性の他の心筋障害との鑑別診断が重
要である253),254).頻拍誘発型心筋症の原因としては心房細動が最も多いが,異所性心房頻拍,促迫性心室固有調律などによる場合もある.心房
細動では,房室伝導抑制によるレートコントロールが重要である255).カテーテルアブレーションで洞調律化が図られれば,心機能が正常化するととも
に運動耐容能,QOLの改善が期待できる256)(クラスⅡa,レベルC)
2 頻脈による心不全(頻拍誘発型心筋症)
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