急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
1.A(軽症)群の抗菌薬選択
セフトリアキソン CTRX:ロセフィン® 1回1~2g 1日1~2回点滴静注(極量1日4gまで)
スルバクタム/アンピシリン SBT/ABPC:ユナシンS® 1回3g 1日2~4回点滴静注
パニペネム/ベタミプロン PAPM/BP:カルベニン® 1回0.5~1g 1日2~4回まで(極量1日2gまで)
【代替薬】
セフトリアキソン→セフォタキシム CTX:クラフォラン® 1回1~2g 1日2~4回点滴静注(極量1日4gまで)
2.B(中等症)群の抗菌薬選択
①グループ1. 単剤投与
タゾバクタム/ピペラシリン TAZ/PIPC:ゾシン® 1回4.5g 1日3~4回点滴静注
イミペネム/シラスタチン IPM/CS:チエナム® 1回0.5~1g 1日2~4回(極量1日2gまで)
メロペネム MEPM:メロペン® 1回0.5~1g 1日2~4回点滴静注(極量2gまで)
【代替薬】
イミペネム,メロペネム→ドリペネムDRPM:フィニバックス® 1回0.25~0.5g 1日2~3回点滴静注(極量1.5gまで)
ビアペネム BIPM:オメガシン® 1回0.3g 1日2~3回点滴静注(極量1.2gまで)
②グループ2. 条件*により併用投与
セフェピム CFPM:マキシピーム® 1回1~2g 1日2~4回点滴静注(極量4gまで)
クリンダマイシン CLDM:ダラシンS® 1回600mg 1日2~4回(極量2400mgまで)
【代替薬】
セフェピム→セフピロム CPR:ケイテン®,ブロアクト® 1回1~2g 1日2~4回点滴静注(極量1日4gまで)
セフォゾプラン CZOP:ファーストシン® 1回1~2g 1日2~4回点滴静注(極量1日4gまで)
 *条件:誤嚥か嫌気性菌の関与が疑われる場合
③グループ3.原則併用投与
セフタジジム CAZ:モダシン® 1回1~2g 1日2~4回点滴静注(極量4gまで)+クリンダマイシン CLDM:ダラシンS®
 1回600mg 1日2~4回(極量2400mgまで)
【代替薬】
セフタジジム→アズスレオナム AZT:アザクタム® 1回1~2g 1日2~4回点滴静注(極量4gまで)
スルバクタム/セフォペラゾン SBT/CPZ:スルペラゾン®*1回1~2g 1日2~4回点滴静注(極量4gまで)
 *クリンダマイシンとともに肝代謝される薬剤のため,腎障害のある時に選択しやすい.
シプロフロキサシン CPFX:シプロキサン® 1回300mg 1日2回点滴静注+スルバクタム/アンピシリン SBT/ABPC:ユナ
シンS® 1回3g 1日2~4回点滴静注
【代替薬】
シプロフロキサシン→パズフロキサシン
スルバクタム/アンピシリン PZFX:パシル®,パズクロス® 1回500mg 1日2回点滴静注
→クリンダマイシン CLDM:ダラシンS® 1回600mg 1日2~4回(極量2400mgまで)
3.C(重症)群の抗菌薬選択
B群の抗菌薬選択に以下を併用する.
アミカシンあるいはシプロフロキサシン AMK:アミカシン®,ビクリン®
200~400mg/dayを1日2回分割投与 CPFX:シプロキサン®*1 1回300mg 1日2回点滴静注
【代替薬】
シプロフロキサシン→パズフロキサシン
アミカシン→PZFX:パシル®,パズクロス® 1回500mg 1日2回点滴静注
ゲンタマイシンGM:ゲンタシン® 80~120mg/dayを1日2~3回分割投与
トブラマイシンTOB:トブラシン® 180mg/dayを1日2~3回分割投与
イセパマイシン ISP:イセパシン®,エクサシン® 400mg/day を1日1~2回分割投与
アルベカシン ABK:ハベカシン® *2 150~200mg/day を1日1回投与
*1 B群でキノロン系薬を用いていない場合に併用する
*2 アルベカシンは抗MRSA薬であるが,緑膿菌に対する抗菌力も有するため
4. 特定の耐性菌に対する抗菌薬選択
(1)MRSAを疑う群
バンコマイシン VCM:塩酸バンコマイシン®注(500mg) 1回500mg~1g(60分以上かけて),1日2~4回点滴静注(1
日量2g)
TDMを実施し,最高血中濃度(ピーク値)を20~40μg/mL,最低血中濃度(トラフ値)を5~10μg/mLとなるように調節する.
重患者やMICの上昇した株ではトラフ値を10~15μg/mLに上げる.
テイコプラニン TEIC:タゴシッド®注(200mg) 初日1回400mg,12時間おきに2回投与,3回目の投与から同量を24時間
ごと点滴静注TDMを行い,トラフ値を10~20μg/mLに調整する.血中濃度が定常状態になるのに2~3日を要する.
リネゾリド LZD:ザイボックス® 錠,注(600mg) 1回600mg,1日2回点滴静注,もしくは経口投与
腎障害のある場合にも用量の調節は不要.また経口でも吸収が良好なため,点滴と同じ組織濃度が得られる.しかし,血小板減
少などの副作用の出現することもあり,注意深い経過観察と,耐性菌の出現ともあわせ長期投与(通常14日まで,最長28日)
は避ける.
アルベカシン ABK:ハベカシン®注(75・100・200mg) 1回150~200mg,1日1回点滴静注
TDMではトラフ値2μg/mL以下,ピーク値9~20μg/mLとされている.1日1回投与がより有効である.(2)ESBL(基質特異性拡張型β- ラクタマーゼ)産生菌が分離された場合,薬剤感受性試験の成績を参考に抗菌薬を選択するのが
原則であるが,ペニシリン系薬やセファロスポリン系薬では薬剤感受性にかかわらず,臨床効果の得られない場合があることが
報告されている.ESBL 産生菌に対しては,カルバペネム系薬に感受性であることが多いため,第一選択薬となる.その他,キ
ノロン系薬が有効であると報告されている.また,アシネトバクタ属に対しては,β- ラクタマーゼ阻害薬であるスルバクタム
(SBT),タゾバクタム(TAZ)そのものも抗菌作用を発揮するため,スルバクタム/セフォペラゾン(SBT/CPZ:スルペラゾン®),
タゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC:ゾシン®)も選択肢に加わる.
(3)多剤耐性緑膿菌(MDRP)が分離された場合
緑膿菌に有効な数少ない抗菌薬(カルバペネム系薬をはじめとするβ- ラクタム系薬,キノロン系薬,アミノ配糖体系薬など)
にすべて耐性になった緑膿菌を多剤耐性緑膿菌と呼ぶ.多剤耐性緑膿菌は,院内感染を引き起こす代表的な細菌の1つであり,
いったん感染症を発症すると我が国では有効な抗菌薬がないため最も難治な細菌感染症といえる(海外ではコリスチン®が使用
されるが我が国では承認されていない).院内感染がその主要な感染経路であることから,院内感染対策を行うことが最も重要
な対策であり,感染症を発症した場合には,複数の抗菌薬の併用を行うことがすすめられているが,併用効果は個々の菌株によ
って異なるため,併用の効果をin vitroで測定することが薦められる.
軽症群(A 群) 重症群(C 群)
図15 肺炎の重症度分類
1.生命予後予測因子
2.肺炎重症度規定因子
→抗MRSA薬の使用を考慮すべき条件(グラム染色なども含めて)
3.MRSA 保有リスク
該当項目が
2項目以下
該当なし 該当あり
3項目以上
が該当
①I(Immunodeficiency):悪性腫瘍または免
疫不全状態
②R(Respiration):SpO2>90%を維持する
ためにFiO2>35%を要する
③O(Orientation):意識レベルの低下
④A(Age):男性70歳以上,女性75歳以上
⑤D(Dehydration):乏尿または脱水
①CRP≧20mg/dL
②胸部X 線写真陰影の拡がり─側肺の2/3
以上
①長期(2週間程度)の抗菌薬投与
②長期入院の既往
③MRSA 感染やコロニゼーションの既往
中等症群(B 群)
 原因菌としては緑膿菌,肺炎桿菌,アシネトバクタ,セラチア,変形菌,大腸菌などのグラム陰性桿菌が多く,グラム陽性球菌ではMRSAの頻度が
高い.高齢者,抜管後間もない患者,補助循環などのため強制的仰臥位を強いられている患者では嫌気性菌による嚥下性肺炎に十分に注意する.
口腔内に常在する嫌気性菌によることが多く,バクテロイデス,フソバクテリウム,ペプトストレプトコックスなどがある.細菌学的検査ではグラム染色
が重要であり,グラム陽性ブドウ球菌が検出されなければ,あえてMRSAに対応した広域抗菌薬を選択する必要はない.図15に従って,重症度を分
類し適当な抗菌薬を選択する.

 治療薬の選択に関しては2008年日本呼吸器学会成人院内肺炎に関するガイドラインに準拠する243).抗菌薬の投与量は初期に十分量の投与が必
要である.また,アミノ配糖体系薬の投与に関しては我が国の投与量,投与方法では有効性が低い.TDMを利用した投与を推奨する.広域抗菌薬の
多用は耐性菌の誘導や選択の原因となる.臨床効果と耐性菌の抑止を目的に抗菌薬を選択する.ここでは代表的な抗菌薬を紹介した.実臨床で
は,使用可能な類似薬を選択されたい(表39).
1 経験的治療における抗菌薬選択
図15 肺炎の重症度分類
表39 抗菌薬の選択
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