貧血は慢性心不全と同じく,急性心不全患者においても独立した予後規定因子である.しかし,現在急性心不全における貧血について是正する明
確な基準は不明のままである.慢性心不全における貧血治療については「慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)」を参照されたい.過剰な鉄
剤投与は鉄の臓器沈着による副作用の可能性があり,エリスロポエチン,ダルベポエチンによる貧血の是正は心血管事故発症の懸念も示唆されて
いる.
急性心不全においての貧血の是正は,即効性を期待してしばしば輸血を中心に考えられている.しかし急性心不全患者を対象とした輸血効果の検
討はほとんどなく,結論が出ていない.急性心筋梗塞患者,急性心不全患者において貧血を是正するために輸血することはかえって予後を悪化させ
る可能性も指摘されている229),230).したがって,明らかに過度の貧血が心不全を悪化させており,かつ早急に病態の改善を要し,輸血でのみ改善
が期待される例に輸血の適応がある.