急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 
1. 直接因子
 中枢神経系疾患
  脳血管疾患,脳腫瘍,脳外傷,脳・髄膜炎など
 中枢神経系以外の疾患
  循環動態障害(低血圧,低心拍出量,心不全)
  呼吸障害(呼吸低下,無呼吸,肺梗塞など)
  感染症
   代謝性障害(高・低血糖,脱水,腎・肝不全,電解質異
常など)
   内分泌障害(甲状腺疾患,副甲状腺疾患,副腎疾患など)
  膠原病
  手術侵襲
 依存・乱用物質
   アルコール,コカイン,覚せい剤,ベンゾジアゼピン系
薬物など
 医薬品
  ステロイド剤,抗コリン薬,抗ヒスタミン薬,麻酔薬,
   H2 遮断薬,ジギタリス,リドカイン,β遮断薬,抗パー
キンソン薬,リチウム,モルヒネ製剤
2. 準備因子
 高齢
 男性
 脳血管疾患(慢性期)
 アルツハイマー病など
3. 誘発因子
 入院による環境の変化
 ICU・CCUなどにおける過剰刺激
 睡眠妨害要因
  騒音,不適切な照明など
 心理的ストレス
 身体的ストレス
  疼痛,痒み,頻尿など
 感覚遮断
  メガネ,補聴器のない状態,眼科手術など
 拘束状態
 急性心不全あるいは慢性心不全の急性増悪により入院した患者の抑うつ症状の割合は高い173),174).心不全患者における抑うつや不安はQOLの
みならず生命予後にも悪影響を及ぼす175),176).早期にスクリーニングし,精神科医,心療内科医,臨床心理士,リエゾン精神専門看護師と協力し
て,適切な治療と援助を行う.また,集中治療下や補助人工心臓装着中の患者や家族については,病状や予後への不安に加え,生命の危機に直
面し,機器による高度な治療を受けることによる心理的ストレスが大きい.看護師は,患者,家族と十分なコミュニケーションをとり,不安の解消に努め
る.

 心不全増悪により入院した高齢患者の約3割がせん妄を発症する177),178).せん妄は治療の進行を困難にし,入院期間を延長し,その後の死亡率
を上昇する179).せん妄予防は,急性心不全治療の円滑な進捗に重要である.せん妄の発症要因には直接因子,準備因子,誘発因子があり(表32
180),せん妄ハイリスク患者が特定される.せん妄予防には,家族や医療スタッフと患者との十分なコミュニケーション,夜間の十分な睡眠への支援,
早期離床,不必要な身体拘束の回避,脱水の改善,高齢者では視力低下や聴力低下に対する適切な支援,音楽などを用いた適度な感覚刺激,セ
ルフケア行動の早期開始,時計やカレンダーなどを用いた時間感覚の維持,などが効果的である181),182).また,せん妄は客観的に評価し183)-
186),せん妄が発症した場合は医師の指示のもと適切な薬物治療を実施する.
4 心理精神的支援
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表32 せん妄の発症危険因子180)