急性心不全あるいは慢性心不全の急性増悪により入院した患者の抑うつ症状の割合は高い173),174).心不全患者における抑うつや不安はQOLの
みならず生命予後にも悪影響を及ぼす175),176).早期にスクリーニングし,精神科医,心療内科医,臨床心理士,リエゾン精神専門看護師と協力し
て,適切な治療と援助を行う.また,集中治療下や補助人工心臓装着中の患者や家族については,病状や予後への不安に加え,生命の危機に直
面し,機器による高度な治療を受けることによる心理的ストレスが大きい.看護師は,患者,家族と十分なコミュニケーションをとり,不安の解消に努め
る.
心不全増悪により入院した高齢患者の約3割がせん妄を発症する177),178).せん妄は治療の進行を困難にし,入院期間を延長し,その後の死亡率
を上昇する179).せん妄予防は,急性心不全治療の円滑な進捗に重要である.せん妄の発症要因には直接因子,準備因子,誘発因子があり(表32)
180),せん妄ハイリスク患者が特定される.せん妄予防には,家族や医療スタッフと患者との十分なコミュニケーション,夜間の十分な睡眠への支援,
早期離床,不必要な身体拘束の回避,脱水の改善,高齢者では視力低下や聴力低下に対する適切な支援,音楽などを用いた適度な感覚刺激,セ
ルフケア行動の早期開始,時計やカレンダーなどを用いた時間感覚の維持,などが効果的である181),182).また,せん妄は客観的に評価し183)-
186),せん妄が発症した場合は医師の指示のもと適切な薬物治療を実施する.