急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Treatment of Acute Heart Failure( JCS 2011)
 

Ⅺ まとめ

心不全の病態理解と治療法が急速に進歩していることを反映して今回の診療ガイドラインも大きな改訂が加えられた.急性心不全は即時の対応が
患者を救い,また対応の誤りが致死的状況に追い込むこともある.診療において必要なことは,まず的確に患者の病態を把握することである.臨床症
状,身体所見が特に重要であることは本ガイドラインにおいても強調されているとおりである.次に重要なことは病態に応じた最新で的確な治療法を
用いることであり,また逐次その効果について適切な判断を加えて柔軟な対応をとることである.

 この領域での病態理解,診療技術の進歩は著しく,ガイドラインの内容も大きく書き換えられることになった.病態把握の面では,特に拡張機能障
害が原因となる急性心不全の病態解明が進んだ.また治療の観点からは急性期の病態把握法として,最近普及してきているクリニカルシナリオ,
Nohria-Stevensonの分類が紹介されている.

 治療法の革新も進んでおり,従来の薬物治療に加えて,呼吸の管理が大きく変わってきた.薬物ではカルペリチドや強心薬の位置づけがより明確
となった.新薬も上市されてきており,今後の臨床研究を踏まえて,より病態に適した治療法を選んで患者に応用されることが期待される.

 なにより大事なことは急性心不全の発症を予防することである.その意味で,急性心不全の診療は慢性心不全の管理,不整脈,虚血,心筋症,弁
膜症の治療と表裏一体である.単に心機能の管理だけでなく,患者総体に対する集学的なアプローチが必要である.

 最後にガイドラインはあくまで標準的な診療データの提供であり,個々の患者における臨床的診断の決定・責任は医師にある.個々の患者の病態
を個別に評価して,標準治療の応用を考えることが重要である.このことを改めて認識して頂き,「急性心不全治療ガイドライン」を実地診療に活用し
ていただくことを期待したい.
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